自歩人の生活 LIFE OF JIPPOJIN

笠原将弘さん(日本料理「賛否両論」店主)Masahiro Kasahara

日本料理ならではの魅力を若い人たちにも伝えたい。

東京に数ある日本料理店の中でも、最も予約の取りづらい店のひとつとして知られる、恵比寿の「賛否両輪」。2004年の開店以来、常に満席という店はどのような思いで作られ、そして、多くの人々に受け入れられたのか。店主で、テレビや雑誌などあらゆるメディアでも活躍する、笠原将弘さんに店づくりに対する姿勢や人気店ゆえの悩み、そして家族とのプライベートな時間などについて語っていただいた。

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一流店での修業時代。そして、父親を継いで知った世の中の声

私は、東京・武蔵小山で生まれ育ちました。今も武蔵小山に自分の住まいがあります。そして、この街は亡くなった父が「とり将」という焼鳥店を営んでいた街でもあります。
高校卒業を控え、進路を考えているとき、日本料理の修業経験のある父が「日本料理だったら一流の店を紹介する」と薦めてくれて、「東京吉兆」に入社することになりました。もしかしたら、将来的には「とり将」を継ぐのかな?と思いながらも、新宿の「正月屋吉兆」で約9年間お世話になりました。最後には二番手まで任せてもらっていたのですが、父の病が発覚し、思っていたよりも早く「とり将」を継ぐことになりました。
「正月屋吉兆」では日本料理のイロハを教えてもらいました。けれど、店を営むことの難しさや、世の中のリアルな金銭感覚を学んだのは「とり将」を継いでからでした。それまでの仕事は昼のコース料理が安くても8,000円。ところが「とり将」では焼鳥

1本を100円で売っている。お客様の払ってくれる何万円というお金を当たり前だと感じ、金銭感覚が麻痺していた私には「100円を稼ぐのがこんなに大変なんだ」ということがショックでした。
継いだ当初はそのギャップに悩みました。けれど、そうした経験の中で、日本料理が若い人たちから受け入れられない理由がそこにあることが、次第にわかってきたんです。安くて本物を出してくれる日本料理はないし、堅苦しいイメージもある。だから、若い人たちはデートにカジュアルなイタリアンを使ったりする。実際、同世代の声も「和食はマナーが厳格そうだし、値段も書いていない店が多いから怖くていけない」というものが多かった。私は、若い人たちにも気軽に本物の日本料理を味わってもらいたいと思い、「賛否両論」をつくりました。

予約の取れない店、だからこその悩み

「賛否両論」では、飲んで食べても1万円でお釣りが来る本物の日本料理をお出しし、20代や30代の方でも気軽に入ることのできる雰囲気づくりをしています。お陰さまで「予約の取れない店」と言われるようになったのは、それまで「こういう店」がなかったからだと思います。
実は、本物の日本料理を素材の質を落とさずに安くご提供

するためには、いつも店を満席にする必要があるんです。それには、まず「圧倒的に美味しい」と感じていただけること。そして「これだけ食べてこんなに安い」と思っていただけることが大切です。また、店を訪れていただくお客様にとって行き帰りの道も楽しくなるような「わざわざ感」のある立地や、日本料理屋的ではない店名がつくる話題性など、様々なことを考えました。
それから、出来るだけ質のいい素材をロスなく使うために、料理はコース1本に絞りました。でも、コースにした理由は、ただロスが少ないというだけではないんです。「和食は注文の仕方がわからない」という声をよく耳にしていたので、わかりやすさも必要だと思ったからです。
うれしいことに、狙いは当たりました。おかげさまで毎日のように満席で、いろんなお仕事もいただくようになりました。現在は、午前中に店に来てインタビューや撮影、打ち合わせなどをこなし、15時ころからは当日の料理の仕込みをチェックし、18時に開店。深夜店を閉めて、就寝するのはいつも 明け方4時くらいです。店は日曜・祝日がお休みで、スタッフは休みますが、私は何かしらの仕事でスケジュールが埋まっていることが多いですね。
これだけのお客様からご支持をいただいて、いろんなお仕事をいただけるのはありがたい事ですが、それだけに怖くなる時もあります。お客様のためには病気にもなれないから、体調管理には本当に気を使います。

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