住まいの風景 Vol.2 「住み慣れたまち」に根付く、美しい独自性。 東京都・T 邸

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無理も緊張感もない、「美しい独自性」が夫妻を包む。

明度の高い「差し色」が、独自のコントラストを生む。

お料理とお酒が大好きな奥さん。だからキッチンも大好きな場所。

スポーツは見るのもやるのも大好きなご主人。ローボードにはスポーツ雑誌がぎっしり。

絶妙な調和、その秘訣はご主人と奥さんの笑顔。

東京・城南エリア。都心と横浜をつなぐ幹線道路、その上を関東有数の環状線が跨いでいる。どちらの道も列をなしてクルマが行き交い、どちらの沿道もさまざまなビルが建ち並んでいる。人通りも多い。一見すると、平日の都心を転写したような場所で、つい素通りしてしまいがちな風景だ。交差点を中心にじっくりまわりを見てみると、平日の昼過ぎとあってか、行き交うクルマは商用車が多い。しかしそのなかに、買物途中であろう女性ドライバーの姿もかなり多く目につく。沿道のビルは軒並み背が低く、公園などであろうか、豊かな緑も多く見える。ビルのほとんどの1階に小さな商店が収まり、その商店に出入りする人や、そぞろ歩く人が緩やかに行き交い、どこか長閑な印象だ。東京・城南エリア、大田区。日本屈指の高級住宅街、田園調布が近くにありつつ、今でも人と活気で溢れる商店街に、けれん味のない人情が残る下町が点在している。商業も自然も、高級も人情もすべて一緒くたにしたパッケージとその「高い完成度」が、なるほど、ここに都心とはあきらかに違う独自性を持たせ、味わい深い輝きを生み出している。T夫妻はそんな城南地区の南側、多摩川にほど近いこの交差点近くに建つ新築マンションに、昨年11月に入居した。

住み慣れたまち。しっかりしたご主人。ありきたりだが、ご主人の印象はまさにこれだった。入居したマンションは城南地区のなかでも、下町の風情と当代のモダンが美しく同居したエリアに建っている。そのマンション近くに実家のあるご主人。生まれも、育ちも、そして自分の「城」もこのエリアという生粋のネイティブだ。住み慣れたまちだから。ご主人はこのマンションを購入した動機を、簡単かつ説得力十分に語ってくれた。購入にあたって迷いがなかったわけではない。候補地もいくつかあったし、そのなかで気に入った中古マンションもあった。そこを購入し、自分たちのライフスタイルに合わせてリノベートすることも真剣に検討した。しかし、たまたま居合わせた「地元」で、以前から気になっていた「地元の土地」にこのマンションが建つことを知ったご主人は、住み慣れたまちで暮らすことを決心する。必要な生活用品は近隣ですべて揃うし、好きな隣街へも自転車で気軽に行ける。趣味のフットサルや最近始めたテニスのコートも遠くはない。しかし、何より実家に歩いて行けるところがいい、とご主人は言う。入居から約1年を経た現在、マンションの防災担当だけでなく地元の消防団にも参加するなど、ご主人のその「選択と決断」にブレはない。都会的でモダンな雰囲気のなかに、地元を愛する下町の気っ風をしまい込んだ、実にしっかりしたご主人である。

調和の持つ「美しさ」と「機能」。調和をはかるのが上手な奥さん。室内の仕立てを担当した奥さんの手前からは、このような印象を持った。簡素だが暖かみと清潔感があり、また驚くほど落ち着ける室内は、調和の持つ美しさを知り、その機能を引き出すことができる人の所作だ。室内はものが少ないわけではない。必需品から趣味のものまで、それなりにあるし、クローゼットのなかも、整理・収納にこだわりがあるわけではない。普通に、かつきれいに収めてあるだけだ。なぜこうも室内が落ち着いて見えるのだろうか?その理由は奥さんの色の選び方にあった。東に向くT邸の室内は決して明るくはない。まして床やキッチン、ダイニングテーブルなどはアンバー色で、明るい印象を削ぐ色だ。しかしバルコニーだけでなくキッチンにも窓が設えられたT邸は、2方向から採光が得られる。そして装飾のない広く白い壁、白いバーチカルブラインド、白いランプシェード、ベージュのソファなど「明度の高い差し色」を配し、それらが薄く、やわらかい光を室内全体にまわし、独自のコントラストを作っているのだ。そこに現れるのは色の明暗が見事に調和した実に落ち着く空間であり、「明るくない室内」だからこそ可能な「空間表現」だ。奥さんは関西のご出身で、茶道と着付けと料理が得意。L型にカウンター付きのキッチンスペースがお気に入りで、ホームパーティーでその得意な料理とお茶をふるまうインドア派だ。生まれも育ちも東京で、スポーツは見るのもやるのも大好きなご主人とは見事に正反対。しかし明暗の調和がはかられた室内で、屈託なく話すT夫妻を見るにつけ、室内の仕立て以外の奥さんの手前の確かさにも、感心するばかりだった。

夫妻の「住まいの風景」。以前ご主人は、クルマ好きがおしなべて名車と呼ぶオープンカーを所有し、今でもそのクルマの単行本を大事に持っている。また乗りたいのではと水を向けると、欲しいですねえ、と言いつつ奥さんに目を向ける。紫外線がね、と奥さんが笑顔を返すと、ご主人は世に溢れる「夫の笑顔」で応える。奥さんの絶妙な調和のはかり方ばかりに目がいってしまうが、ご主人の調和のはかり方も、それはそれで、なかなか奥ゆかしい。T夫妻はマンションの入居に合わせ3LDKを2LDKにリフォームし、リビングを拡張した。茶道や着付けが得意な奥さんだが、どちらも教室を開けるほどの手前。今は広々と使っておいて、ゆくゆくはそのリビングの広げた部分を畳敷きに変え、教室にする予定だという。ご主人も奥さんに着付けてもらい、夫婦そろって着物で散歩するほど和装が気に入った様子。独自の文化を持つ城南エリア、その南側に地元を持つご主人。利便も重要視しつつも「住み慣れたまち」を一番の理由に「地元の新居」を構え、根付くことを決心した。関西出身の奥さんは、臆することもなければ、肩ひじも張らず、実に見事な調和を持ってしっかりとご主人の横に並んでいる。都会的なライフスタイルと下町の気っ風。アウトドアとインドア。関東と関西。そのすべてが無理も緊張もなく、一緒くたになった「美しい独自性」が、T夫妻とその住まいの風景に映し出されていた。

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